広島城が「鯉城(りじょう)」と呼ばれる理由は、一つに確定していません。「己斐(こい)」という地名と結び付ける説はありますが、広島城の公式解説も、はっきりした由来は分からないとしています。
城の紹介で「鯉城」と聞くと、お堀の鯉から付いた名前なのかな、と想像したくなります。けれど、江戸時代の終わりにはその別名があったことと、なぜ付いたかが分かることは別です。名前をたどると、この違いが見えてきます。
悩む庶民お城なのに、どうして魚の「鯉」なの? 読み方も「こいじょう」じゃないんだね。

「りじょう」と読むんだ。読み方や、昔から使われていたことは確かめられる。でも、名前の理由まで同じように分かっているわけではないんだよ。
「鯉城」という別名は、江戸時代末には使われていた
鯉城は、広島城の別名です。広島市現代美術館の展覧会解説にも、江戸時代末にはこの呼び名で知られるようになったと記されています。最近の観光用に新しく作られた名前、というわけではありません。
ただし、「江戸時代末に使われていた」は「そのときに初めて名付けられた」と同じ意味ではありません。資料に名前が残っていれば、その時代には呼ばれていたと分かります。それだけで、最初の命名の時期や名付けた人まで決まるわけではないのです。
出典:広島市現代美術館「鯉はおよぐ」展覧会解説、広島城公式「しろうニャさんの部屋」
よく紹介されるのは、「己斐」という地名につなげる説
広島城の館報『しろうや!広島城』第15号は、明治時代後半から大正時代の本に、「己斐」の音を「鯉」に結び付ける説明や、「己斐浦」に由来するという説明が載っていると紹介しています。
「こい」という音から魚の鯉へ。言葉のつながりは覚えやすいですね。しかし、説明が本に載っていることだけを理由に、名付けられた当時の事情まで確定したとはいえません。
同じ館報は、別名が江戸時代には使われていた一方、その由来を説明する江戸時代の資料は見つかっていない、と指摘しています。呼び名の記録より、由来を説明する本のほうが後に現れる。ここが、地名説を確定した答えとして扱えない理由です。

図の左は「その名前が使われていた」という記録、右は「名前はこうして生まれたのでは」という説明です。後の説明が必ず誤りということではありません。ただ、当時の命名を直接確かめる材料とは分けて読む必要があります。
出典:広島城館報『しろうや!広島城』第15号「おしえて!広島城博士10」(2008年、PDF・3ページ)
カープの名とのつながりは、別の話として分かっている
同じ第15号では、広島東洋カープの名前を決める理由の一つに、広島城が鯉城と呼ばれていることがあったと説明しています。城の別名が、後のチーム名にもつながったのですね。
ここは混ぜやすいところです。「カープの名前に鯉城が関係する」と分かっても、その前の「城がなぜ鯉城になったか」まで解けたことにはなりません。同じ鯉の名前でも、城の別名の由来とチーム名の由来は、それぞれ確かめる話なのです。
別名を見かけたら、由来がどこまで分かるかにも注目
「鯉城」と聞いて、魚に似た城だから、と一言で結び付けたくなっても、現在の広島城公式は由来を未確定としています。持ち帰りたい答えは、昔から使われる別名だが、地名説を含め、名付けの理由はまだ決められないということです。
次に城の別名を見かけたら、「いつの資料にその名前があるのか」「由来の説明も同じ時代のものなのか」と見てみてください。名前を知るだけのときより、解説の読み方が少し変わるはずです。
城と魚の関係が気になった方には、高松城のお堀に鯛がいる理由もどうぞ。魚が暮らす水の仕組みを扱っています。屋根の魚のような飾りについては、しゃちほこを載せる理由で紹介しています。
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